今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1754 持続化給付金 不正受給問題への視点



 新型コロナウイルスの影響で売り上げが減った中小企業向けの「持続化給付金」について、政府は新たに追加で3140億円の予算を充てることを決めたと、11月2日の日本経済新聞が伝えています。

 持続化給付金は、新型コロナウイルスの感染拡大にかかる自粛要請などで売り上げが半分以上減った中小企業や個人事業主に、最大200万円を給付するもの。10月30日時点で380万社から申請があり、政府は1月の締め切りまでに410万社程度に増えると見込んでいるということです。

 想定を超えるペースで申請数が増加し続けている持続化給付金。今回の措置により給付総額は約5.3兆円に膨らむこととなり、当面は(そこに)飲食店などの家賃を支援する給付金向けの財源を充てるとしています。

 こうして人気の(必要な人にとっては「頼みの綱」となる)持続化給付金については、一方で、不正受給による逮捕者などが相次いでいることも問題化してきています。

 警察庁の発表では、持続化給付金を巡っては10月21日までに13の都府県警が55人を詐欺容疑などで逮捕したほか、6人を書類送検し被害総額は計4300万円に上っているとされています。

 また、消費生活センターなどの各窓口には(こうしたニュースを聞きつけ)発覚を恐れた返還申請の相談が激増しているとされており、経済産業省は当面、加算金などのペナルティーを免除する対応を導入することで返還を促す措置を講じるとしています。

 同省の発表によれば、10月29日までに6028件の(返還の)申し出があり、既に返還手続きを済ませた751件だけでも金額は計7億9200万円にのぼるということです。さらに、申し出のあった残りの件数の総額を単純計算すると、返還額は実に約67億9000万円に達すると報じられています。

 こうして不正受給が広がった背景には、迅速な支給を目指すためにオンラインでの申請手続きが簡略化されている上、他の主な資金支援策とは異なり返済の必要もないこともあるようです。

 もちろん、現在自主的に問い合わせをしてきているのは(不正受給を行った人の)ごく一部であることは想像に難くなく、今後調査が進めば不正の件数はさらに増える見込みと考えられています。

 コロナウイルス感染拡大下の緊急事態とは言え、(普段は犯罪とは縁のないような)一般の人々の間にどうしてこんな事態が生まれ、現在まで放置されてきたのか。

 ノンフィクション作家の橘玲氏が、週刊プレイボーイ誌(10月19日号)の連載コラム(「そ、そうだったのか!? 真実のニッポン」)に「持続化給付金の不正受給で日本の未来がわかる?」と題する興味深い一文を寄せています。

 トラブルの多発が報じられている「持続化給付金問題」ですが、報道によると発覚した不正受給の手口のほとんどは、
1. 税理士などが前年度の架空の確定申告書を作成する
2. 申請者はそれを使って税務署で期限後申告し、控えを受け取る
3. 今年度の架空の売上台帳で売上が減少したように見せかけて、確定申告書類とともに給付金を申請する
という単純なもの。

 紹介者や偽の申請書類を作成した税理士は半分(一人につき50万円)程度のキックバックを受け取っていたようだが、大金に目がくらんで手を染めた素人もたくさんいたのではないかと橘氏はこのコラムに綴っています。

 さて、不正が許されないのは当然としても、不思議なのは、(そもそも)なぜ「どうぞズルしてください」のような制度にしたかだというのが、このコラムで氏の指摘するところです。

 申請者が継続的に事業を行なっているかどうかは、確定申告を3年ほど遡ればすぐに確認できる。なので、「去年事業を開始し、しかも期限後申告」という疑わしいケースの事業実態だけを調べれば十分防げたはずだと橘氏はここで疑問を呈しています。

 それにもかかわらず、なぜこんな簡単な不正防止策を講じなかったのか。

 氏はその理由のひとつに、1人10万円(の特別定額給付金の)支給で、「給付が遅い」「申請したのに給付されない」とメディアが散々行政を叩いていた時期と、不正受給の手口が広まって疑わしい申請が届きはじめた時期とが重なったことがあるのではないかと見ています。

 その結果として、政府が「性善説」に立って迅速な給付をするしかなかったとしたら、これはまさに「人災」というべきもの。必要な確認作業よりも、「何やってんだ」という批判と、「急げ急げ」の声が優先されたということでしょう。

 しかしさらに考えてみると、そもそもこんなアナログな方法で給付していること自体が異常だというのが、このコラムにおける橘氏の見解です。

 マイナンバーは(とうに)国民全員に付与されているだから、それを税務申告データと銀行口座に紐づけ、申請内容と照合すれば不正をはたらく余地はなくなる。こうしたシステムが整備されていれば、本人がいちいち売り上げの減少を申し立てる必要すらなくなると氏は言います。

 マイナンバーで銀行口座の入出金額を把握し、新型コロナ以降に収入が減ったひとだけを効率的に抽出して適切な給付をすればいいので、富裕層や収入の安定した公務員、年金受給者にまで1人10万円を配るようなバカげたことをする必要もなくなる。

 日本政府は、2000年に「5年で世界最先端のIT国家を目指す」と宣言したにもかかわらず、20年かけてこの体たらくでは、世界各国との距離は逆にどんどん開いていくばかりだと橘氏は話しています。

 メディアや野党がこぞって国民を扇動し「変化」に竿刺してきた状況をようやく振り返ることができるようになった今、ごく普通の人々に「現状」の問題点をきちんと説明し理解を得ることができるのか。

 「デジタル化」を掲げて発足した菅新政権ですが、このままではきっと、2040年になっても同じ愚痴をいうことになると懸念するこのコラムにおける橘氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。