今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#3005 24時間戦う現代人

 働き方改革が進んだ令和の時代。昭和の熱血サラリーマンほど(時間的には)働いていないはずなのに、なぜか疲れてしまう現代のジャパニーズ・ビジネスマン。一般社団法人日本リカバリー協会代表理事の片野秀樹氏は、「それには(それなりの)理由がある」と話しています。(『「昭和の熱血サラリーマン」よりイマドキ会社員の方がよっぽど疲れてる納得の理由』2025.9.28 DIAMOND ONLINE)

 俳優の時任三郎さんが熱血サラリーマンに扮した栄養ドリンク「リゲイン」のCMが流れたのは、バブル経済もピークの1989年(平成元年)のこと。そのCM曲は、軍歌のようなメロディーと世界観で戦うサラリーマンを謳い上げる歌詞が受け、60万枚のセールスを記録したと片野氏は振り返っています。

 このCMから生まれたのが、有名な「24時間戦えますか」というキャッチコピー。この時代、これからの時代のサラリーマンは24時働き続けなければならない…そんなモーレツな時代がやってきたのだというアピール、というかアジテーションがなされていたということです。

 しかし、今から振り返ってみると、熱血サラリーマンとされた当時のビジネスパーソンたちは、実は24時間戦ったりしてはいなかったと片野氏はこの論考に綴っています。 営業に回る際はそもそも移動時間を考慮しなければならないので、1日で行ける取引先の数にも限りがあった。1日で回れるのは、せいぜい3~4社といったところ。しかも、取引先に行く際の移動時間ではほとんど仕事ができなかったということです。

 おかげで、当時は移動中に好きなマンガを開くことなどで気分転換ができた。携帯電話が一般化するのはもうちょっと後のこと。いったん外に出れば基本的には連絡がつかないので、フリーな時間に公園のベンチでタバコを吸ったり、喫茶店でコーヒーを飲んだりパチンコで時間をつぶしたりする人もいたかもしれない(というか、実際にたくさんいた)と氏は話しています。

 これはすなわち、仕事をしている日中でもバランスよく休養をとれていたということ。 インターネットが普及していないこの時代には、(24時間の中に)心と体をリラックスさせ疲労回復を促す余白の時間がまだかなりあったというのが氏の感覚です。

 しかし、現代。デジタルデバイスの進化が、心身の余裕をもたらしてくれるはずの余白の時間をどんどん奪い取っていくのを、今まさに目の当たりにしていると氏は説明しています。通信機器やデジタルデバイスが登場したことによって、オンラインでミーティングや商談が行われるのが普通になった。ひとつの商談を終えた直後に別の商談を入れることも可能になったということです。

 氏によれば、実際、昭和の時代なら1日に3~4件だった商談が、インターネットの発達によって1日に7件も8件もこなせるようになっているとのこと。商談、会議、デスクワーク、商談、会議、デスクワークといった具合に、次々とタスクをこなさなければならない現実が生まれているということです。

 氏自身、たまたま空きの時間ができたときに一息つこうと思っていても、スケジュールが社内全体で共有されているので、その隙間時間にも(なんやかやと)打ち合わせなどが入ってくると氏は言います。

 人間は基本的にシングルタスクしかできないのに、デジタルデバイスを利用することで(当然のように)マルチタスクが求められる。仕事が終わったオフの時間ですらスマホやパソコンでメールのチェックができてしまうため、寝ようとしたベッドの中で仕事のメールの最終チェックを日課としているサラリーマンもいる(だろう)ということです。

 それはつまり、現代に生きる私たちこそ、まったく余白のない世界で(時任さんもまっ青の)「24時間戦っている」ということ。しかしその結果、私たちはこれまでとは違うタイプの疲労を抱え込むことになったと、氏はここで指摘しています。

 振り返れば、古き良き昭和はいまだ肉体労働の時代だった。しかし、平成を経て令和になると時代が大きく変わり、頭脳労働がメインの時代に変化したと氏は言います。

 一日中肉体労働を続けていれば体は疲れるが、家に帰ればしっかり眠れる。生体リズムも乱れまず、寝れば寝ただけ肉体的疲労は回復していたはずだ。しかし現代は、身体よりも頭を酷使する仕事がメインになった。デスクワーク中心であるため、体自体はそれほどの疲労を感じはしないものの、そのかわり頭だけが疲れている状況が続くということです。

 しかも、オフの時間になっても脳の興奮状態が続いていたりして、私たちの生体リズムも乱れがちとなる。このような状態に陥ると、横になって休んだり、眠ったりするだけでは、なかなか疲労がとれないというのが氏の懸念するところです。

 自覚のないままに24時間働き続けている現代のジャパニーズ・ビジネスマン。オン・オフの切り替えを大切にして、きちんとしたオフの時間を確保することが健康とやる気のカギになるだろうと話す片野氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。